年に一度、市内の不動産屋がみんな集まって、弁護士のお話を聴く勉強会がある。
その勉強会で毎年必ず、イワク付きの物件のイワクはどこまでかという話題が出る。
というのも不動産屋は、イワク付き物件のイワクを必ず告知して取引しなければ法に違反する事になる。
ところが、何がイワクで、何がイワクでないのか、詳しくは法律で決められていないので、
不動産屋もどこからが違反なのかのボーダーラインが分からず、
確定するのは、訴訟にになって裁判の判例が出た場合のみとなる。
裁判はしたくないので、勉強会であらかじめ弁護士の先生に相談して、判断して貰うわけだ。
弁護士は過去の判例を元に教えてくれるのだが、しかしほとんどの場合、判例なしでも分かるという。
自殺があった場所に住むのは嫌だと思うなら、自殺は告知せよということで、
自分が気になるのがイワクだと判断すればOKらしい。

普通の人ならそれでOKなのかも知れないが、あたしゃ自殺があっても一切のマイナスを感じない。
でも、自分で平気だからって、自殺物件を内緒で仲介すると、告知義務違反になる。
よって、あたしは自分の感性が普通でない事をわきまえて、
自分にとってはどうでもいいことだが、よその人は自殺のあった物件が嫌いだと、覚えておく事になる。
そうしないと、いざ自殺のあった物件を扱う時に大変なことになる。

困ったことに、この自殺問題は複雑に展開する。
お隣さんが自殺した場合は告知義務はない。
でも、お隣さんが飛び降りてこっちの敷地に落ちて死んだ場合は告知しなければいけない。
その家に住んでいた人が、外出して自殺した場合はどうなのか。
何年前、何十年前の自殺まで告知するのか。
お祓いしたらおわりでいいのか。
建て直したら終わりで良いのか。
あたしは自殺自体が気にならないので、よくそんなことにそこまでこだわるなぁとあきれている。
しかし、裁判ではなるべく普通の人の感性で公平に裁くのであって、
普通の人とは、自殺があった部屋にいると精神的にダメージを受ける人だと、裁判で決まっている。
普通でない人は、より多数派である普通の人にあわせて生活しなければいけない。

最近気がついたのだが、どうして自殺ばかり話題になるのか。
たとえば物取りに殺された場合、周辺の治安が悪いとか、狙われやすい立地だとかで、
この物件に住むと自分もそのうち物取りに殺される確率が、他の物件より高くなるわけだ。
そっちの方が重要だろう。
風呂場で溺れて死んだ場合、溺れやすい危険な風呂場だとした建物の欠陥だ。
こっちの方が、自殺なんかより物件の価値を左右すると思うのだが。
なんでいつも、自殺の話題しか出ないのだろうか。

知らない人がなぜどこで死のうが、その近くに行くと無関係の自分にダメージがくるわけがない。
これって、物理的性質上害になり得ない電磁波で健康被害を訴える人と同じだろ。
害にならない電磁波を、自分の勉強不足が原因で害があると勘違いした人は当然却下されるのに、
自殺現場近くに何かあると感じる人を普通と判断する裁判所ってどうなのよ。
自殺は他の死に方と違って、生きてる人に精神的なダメージを与えるなどと、
司法にオカルトを持ち込むなボケ。
こういうのは、法律ばっかり勉強してサイエンスに疎くなってる連中に決めさせてはいけないよ。

あ、そういやあたしの方が普通じゃなかったんだな。
自殺物件はオカルトじゃないって、普通の人は判断するんだろうな。