アーカイブ

2012年 8月 27日 のアーカイブ
2484 letters | 1269 views | コメントする

 なんか毎週一人で八助に行ってる。一応、穴場だと思ってるからあまり他人にはお勧めしたくないけれども、食うんだったら初めての人は「こく煮干」が良いと思う。いや、あたしもメニューを全部食べたわけじゃないけどさ。いつもカウンターに座って調理の様子を見てるから分かる情報としては、八助にはダシの鍋が数種類あって、それらは一種類のラーメンに付き一種類の鍋って訳じゃなく、いくつかの鍋をブレンドして一種類のラーメンを作ってたりする。その辺を踏まえた上で、他の店ではなくあえて八助で食べる理由になりそうなメニューは、「こく煮干」「濃厚魚節」「特選煮干」の三種類にしぼられると思うんだよ。その中で、たぶん誰にでも勧められるのが「こく煮干」で、あたし自身もこれに背脂入れて700円ってのを高頻度で食べている。「濃厚魚節」はタカハシ風のやつだから、タカハシ好きな人に比べて食べてみればって感じ。煮干4倍まで出来ると張り紙がしてあるから、そのタカハシ風を4倍ってどんな感じか、あたしはまだ試してない。そして「特選煮干」ってのは、うん、これこそネーミングからしてもたぶん店の最も食わせたいメニューなんだろうが、だからこそと言うべきか、とても人を選ぶ食べ物だった。

 あたしが特選煮干を注文したのは二度目だ。一回目はあまりにも予想と違う味がしたので、調理に失敗したのかとさえ思った。これが店の意図した味なのか意図せずにそうなった味なのかわからなかった。だから、早急にもう一度食おうとは思っていたが、せっかく行ったら「こく煮干」が食べたいと思っちゃうので、チャレンジな注文は先延ばしになっていたのだが、ついに二度目を食べてみて、これが意図した味だと言う事を思い知った。

 特選ってどういうことだっけ?肉だったらなんか油が霜降りで柔らかかったりするよな。それが煮干でって事は、えーっと、どういう味になるんだろうな。と、想像をいくら巡らせたとしても、この特選煮干の味には決して辿り着くまい。とにかくしょっぱい。しょっぱすぎる。しかも苦い。何が特選なんだ。ってのが一度目の感想だ。でもね、しょっぱいかどうかってのは、どんぶりで合わせる醤油の加減で多少の誤差は出るものだから、あたしの食べたやつはたまたま醤油が多く入りすぎただけかも知れないと思って、もしかしたらいつもはもう少し醤油少なめで出るのかも知れないとも、いや、これで完成かも知れないとも思った。そして二回目食べてやっぱりしょっぱいんだけど、あぁなるほどって理解した。ダシを濃く取ると醤油の量が同じでもしょっぱく感じるんだよ。これって、すごくダシが濃いからしょっぱいし苦いしって感じになっちゃうんだな。「こく煮干」のスープ2杯分を煮詰めて1杯分の量にしたかのような、いつも食べてるやつの何もかも濃いバージョンって感じ。でも濃いってのと特選ってのは違うわけで、特選を選ぶとこく煮干の濃いやつが来るという予想は誰も出来ないはずだ。

 かつて、タカハシはよそとはあまりにも違いすぎる食べ物だったため、気軽に普通のラーメンを求めて来た客が一口しか食べずに帰っていくという事がときどきあったが、そのくらい個性が強いからこそタカハシにはまる人も多かったわけだ。そんなタカハシの個性がかすんでしまうほど、特選煮干はしょっぱすぎるし苦すぎるし、でも初めて行く人が「特選」という単語を見ていきなり注文するかも知れない危険度も持っている。そういえば八助のタカハシ風メニューにあたる濃厚魚節は4倍まで可能だけど、初めてでいきなり4倍頼んで口に合わなかったとしても、いきなり4倍を頼んだという自分の責任があるから店にクレームは出ないはずだ。しかし特選煮干はいきなり特選を頼むことがしょっぱすぎやにがすぎを最初から想像は出来ないわけで、これは初めての客がもう来ないぞと怒って帰るかも知れない危険メニューにあたるだろう。

 そして危険メニューこそあたしの求める理想のラーメン。ラーメンなんてうまくて当り前であり、ただうまいだけじゃどこに行ってもうまいんだからそこに行く価値はない。誰もがうまいと感じるラーメンは、誰もがそこそこのうまさしか感じない。しょせんラーメンのおいしさなんて、ラーメンゆえの想像出来るおいしさの限界を超えられない。限界を超えるならば、ラーメンですらない食べ物を目指さなければ行けない。そしてタカハシはラーメンでないものを作り上げ、ラーメンを期待して食べに来た人は裏切られ、怒って帰る事もあった。八助の特選煮干もやはりラーメンではないものであり、しかもタカハシでもないものだが、そのタカハシへの慣れもあって、あたしにとっては今や個性的で美味しい食べ物だと感じるようになってしまった。前回も今回も、おつゆは全部飲み干した。

 九州の人でも豚骨以外のラーメンを食べるだろうし、豚骨の店ばかり乱立してたら他店との差別化どうすんのよとか思ってたけど、津軽で煮干のラーメン店が乱立してて、しかも観光客向けではなく地元の人が好きで食べに行ってるわけで、向こうの人もこんな感じなんだろうなって理解した。どっかの地方に昔からあるラーメンって、情報化が進んでなくて全国標準のラーメンよりローカライズラーメンが流行ってしまった感じで、津軽でも昔ながらの煮干ラーメンはあったし、あたしはそれを全国標準のラーメンより美味しくないと思う。そして今、全国標準のラーメンがどういう物かも分かった上で、昔はなかった新しい煮干ラーメンの潮流があって、それは全国標準のラーメンより美味しくていろんな店の煮干ラーメンを食べに行っちゃうレベルだと思う。このまま定着するのかな。

 何年か前はタカハシだけ特筆すべき店だったが、もうタカハシ基準でする話は古いね。タカハシ風もありだけど、タカハシですらない新しいものが出てきてるわけで、最近ホント、ラーメン食い過ぎてウェスト増えるわぁ。