タカハシ風ラーメン
新しくできたラーメン屋のスープがタカハシ似だった。
タカハシとは、かつてあたしがバイトとして潜入していた飲食店のことだ。
世間的にはラーメン屋に分類されるが、オヤジはその麺料理をラーメンと呼ばれることを嫌った。
確かにタカハシはラーメンとは別の料理であり、スープも麺もタカハシにしかない独自料理だった。
自称ラーメンファンに限って、ラーメンのものさしでタカハシを評価するわけで、そりゃオヤジも嫌がるさ。
ラーメンなら多少違っても別の店で食べられるが、タカハシはタカハシにしかないため、
タカハシが好きな人にとってタカハシは特別な場所であり、その麺料理には個別の料理名をつけたくなる。
まぁ、あたしはその麺料理をもタカハシと呼んでいるので、知らない人が聞くと話が変になるのだが。
で、今日行ってきた新しいラーメン屋は、まるでそのタカハシをラーメンにしたような感じだったと。
店の名前が分からない。
「御無礼」とでっかく書いた布があったのだが、それが店の名前だろうか。
しかも、ラーメン屋であることがわからない。
あれじゃ単なる謎のプレハブだ。
しかし、よく通るところなので、よく見たらラーメン屋っぽかったので、入ってみた。
食券販売機には、煮干しラーメンか、あっさり煮干しラーメンか、あとはつけ麺とサイドメニューぐらい。
つまり煮干しラーメンしかない。
あたしは煮干しラーメンでおいしいのを食べたことがないので、食券販売機を見てガッカリした。
しかし、あっさりがあると言うことは、あっさりでない煮干しラーメンはこってりなわけで、
煮干しでこってりというのも食べたことがないので、逆に期待して注文した。
よその人の食べているのを見ると、スープの色がモロに見たことある、すなわちタカハシだ。
「細ちぢれ麺もできます」って書いてあるということは、あたしの嫌いな細ちぢれ麺じゃないってことだ。
あっさり煮干しに細ちぢれは津軽の定番で、あたしがラーメン嫌いだった頃の代表的な味。
そのどっちも否定してくれるんだろうと思って期待が高まる。
かなりワクワクしてきた。
で、やっぱり来たのはタカハシ風ラーメン。
スープはタカハシから豚骨味が少し減って、よりトリガラの醤油ラーメンに近付いたもの。
麺は、ラーメン屋の麺をカップラーメンで例える時代が来るとは思わなかったが、日清のノンフライ麺風。
タカハシと日清を知ってる人ならこれで伝わったはず。
トッピング追加はしなかったが、ゆで卵半分、チャーシュー一枚、メンマ、ネギがデフォルト。
このネギがまたタカハシ風で、あのスープにあのネギがたまらないって事を完全に心得ている。
そこまでされると、いつもタカハシでやってるのと同様、スープは全部飲むしかない。
タカハシで一番うまいのは、スープの底に沈んでいる部分で、スープを全部飲まないとそれは味わえない。
かといって、麺を食べ終わってから大量にスープを飲むのは苦しい。
ゆえに、麺を食いながらスープを飲む回数を、タカハシではいつも多めにしているが、
今回もそのペースで食べた。
残念ながら、ここの麺はタカハシより少ないようで、最後のつゆのあまり方が多かった。
タカハシはラーメン屋の1.3倍ほど麺が多いので、タカハシをラーメンにすれば麺も少なくなって当然だ。
調節は狂ったが、最後まで飲み干し、沈殿した濃い所もやはりタカハシ風だった。
タカハシ風をよそでやっても、ラーメンとしては受け入れられない危険があるが、
弘前でやるってのなら、タカハシ風だという噂で流行るかも知れん。
タカハシは唯一の存在だったからこそ、場所が悪くても営業時間が少なくてもやっていけたが、
あんな便の良い場所でタカハシ風をやられたら、タカハシじゃなくこっちで我慢する人も出てきそう。
あたしは既に揺れている。