綱引きで流血
保育園の運動会で親の綱引きを頼まれていたのだが、9月は奇数月であたしにとってはドーピング真っ最中となり、あんまりがんばって普段使ってない体の使い方をするとどこかがつってその辺をのたうち回る事になるので、玉入れぐらいならでても良いけど綱引きは遠慮したいと思っていた。今年はいよいよ仕方なく綱引きをやる事になったのだが、本気を出す気は一切なくて、綱を引いてる演技でもしておこうかと思っていた。
でもいざ「よーい」って言われたら、その地面の綱を素早くもって引っ張れば相手が引っ張るより先にアドバンテージを得られるだろうとよぎってしまい、「どん」でかなり本気で綱を掴んでスタートしてしまった。よそのかなり本気なお母さんが引っ張りながら気合の大声を発していたため、あたしもつられて声だけは大きく出しておいた方が演技としても見栄えがいいかなと本気の声を出した。本気の声を出すと本気の力も出てしまうもので、一本目が終わった時点で手のひらが真っ赤になってじんわりしてしまった。やりすぎた。
二本目も連取すればこの綱引きは終わる。しかし負けるともう一回引っ張らなければいけない。そのことをわかって空気を読んで八百長して欲しいと心から思った。ところが二本目は相手の方が強い。負けそうだ。でも負けたらもう一回引っ張らなければいけない。これは普通に勝つのが大人としてのマナーだ。マナーの悪いやつが社会生活をしてる大人の綱引きに三本目の盛り上がりをもたらそうとしてやがる。負けちゃダメだ。絶対に終わらせるんだ。これが最後の戦いだ。
その様子を見ていた嫁の証言によると、あたしが一人で全員を引っ張っていたらしい。終わってみるとあたしの手は両方とも流血している。綱引きで血を流すほど引っ張る人なんているのか。保育園の綱引きでこんなに本気を出すやつはいるのか。本気を出さないつもりじゃなかったのか。演技で終わるはずだったじゃないか。何やってるんだ。漫画のキャラですら手から血を流すのは「友の命を救うために決して手を離してはいけない」ようなときだけだ。この運動会の綱引きに友の命でもかかっていたのか。なんて事をしてくれたんだ。
一応、心配した体のつりは起こらなかった。それはいいんだけどそれよりもケガしてるじゃんバカ。本気すぎて血が出るほど握ってるじゃん。懸垂を休まなきゃならないよ。その懸垂で手のひらは多少硬くなってたつもりだったんだけど、固い部分を避けるように柔らかいところが破けてたわ。指はバンソウコウを巻けるけど、手のひらはすぐはがれちゃったから放置。もう綱引きはやらせないで。